【著書紹介】
亀田真澄氏の著書は、旧ユーゴとソ連のプロパガンダを、映画、写真、グラフ雑誌などの分野で比較研究したものです。本書で著者はセルビア・クロアチア語とロシア語の一次資料を丹念に調査したうえで、欧米の研究動向を踏まえ、現代のメディア研究・表象文化論・アダプテーション理論などを応用した理論的考察を展開しています。そして、ユーゴは国民的アイデンティティを創出するためにソ連のモデルを「翻案」したと捉え、「現前性」と「媒介性」という概念を用いて両国の違いを鮮やかに示すことに成功しました。両国のプロパガンダをこのような視点から比較分析した研究は国際的にも前例がなく、独創的な成果と言えるでしょう。共産主義文化の複数性、プロパガンダ芸術と国民的アイデンティティ、芸術とメディアの関係など、文化研究・表象文化論に関わる現代的問題の解明に貢献しうる射程を持った研究書です。(MN)
|